知りたい:ニッポンを蝕む「男病」とは

知りたい:ニッポンを蝕む「男病」とは

「男の生きづらさ」という言葉がある。日本社会における女性の生きづらさはある意味わかりやすく発生しているが(例:2018年の医学部不正入試問題)、男が生きづらくなるとはどういうことだろうか。(古川晶子


「男の生きづらさ」は、男性であるがゆえに受ける不利益だという。例えば、女性が多い職種で働く男性が職場で感じる孤独や顧客に拒否される経験、勤務先企業に育児休業を申請する場合に難色を示されること、などがあるが、問題の認識はあまり大きくはない。男性の育休については、カネカの事例(参考:まんなかタイムス20190607の知りたい)をきっかけに、いくつかの報道がなされたが、悲しいことに選挙の話題が出てきたら目につかなくなってしまった。

「定年退職後、職場に代わる居場所を持てない」という課題がある。一時はメディアで「粗大ゴミ」「濡れ落ち葉」「わしも族」などという言葉がさかんに取り上げられた。自宅からほとんど出ずに生活し、妻を束縛する男性を表す言葉である。そこから発生する妻の心身の不調に「主人在宅ストレス症候群」という名称までついている。

この問題は、定年と共に表れるが、じつは定年とは無関係で、それまでの40年近くの行動の積み重ねに本当の原因がある。現在の日本社会では、長時間の通勤と勤務で過ごしてきた会社員の多くは既婚の男性であり、彼らがほとんど知らない家族や住まい、地域のつながりは、専業主婦である妻が担ってきた。定年で組織を離れ、所属も役割も失った男性は、新たなライフスタイルとネットワークをどう作っていくかがわからない。わからない世界に出ていきたくないから、妻にすがる。それが束縛という形で表れる。

男性のライフスタイルの問題に詳しい重川治樹さん(作家・ジャーナリスト)は、このような男性の持つ行動様式や考え方を「男病」と名付けている。その特徴は、常に他者を蹴落とすことを奨励されている、他者を心の底から信じ受け入れることができない、弱い自分を正直に開示できない、家事や育児にかかわらないため頭でっかちになり生命力が弱まる、女性を蔑視・抑圧・支配するのを当然と思いながら女性に依存する、などだ。これらの克服は、新たな居場所作りの必須科目と言える。

重川さんは、今の日本で「男病」を治し、「男の生きづらさ」を解決するのは非常に難しいとみている。

女性の生きづらさは、運動の歴史の中で「女だから」「妻だから」「母だから」「女のくせに」「妻なのに」「母たるものは」と押し付けられたことや諦めたこと一つひとつについて、当事者が自分自身の痛みを知り、その痛みを与えているものを知り、抵抗するということを繰り返して、前に進んできた。取り組みは半永久的に必要だが、進んでいることは間違いない。

それに対して「男病」の取り組みはなかなか進まない。それはなぜか。重川さんが「男病」について伝える際、その言葉を素直に受け止める男性はほとんどいない、「自覚がない」という。「男である自分が弱い存在であると認めるわけにはいかない、まして病などあり得ない」という反応だ。当事者が自分自身の痛みを知ることが、取組みの大前提であるが、そこがまず難関となっている。

重川さんはこれを「踏んづけていた側なのに踏んづけられている、そこを認めないと自分の痛みの元が見えない」と表現する。生きづらさとは言い換えれば「抑圧」である。本来、男性社会である日本において男は「抑圧」する側だが、生きづらさを感じるときには「抑圧」されていることになる。「抑圧」される側であるということを認めないうちは、今起きていることも、その原因も見えるようにはならないのだ。

「男病」の男性はよく「女性は論理的に考えられない」と言う。それならば、現代社会の構造や、その中での自分自身の位置づけに目を背けず、「男の生きづらさ」はどのように軽減することができるのか、論理的思考で分析してみたらいいのに、と筆者は思う。

「人生100年時代」となった今、「男病」は定年後の再就職にも大きな妨げとなる。新たな職場でスムーズに一員となり定着するには、周囲の人とフラットな関係性をつくるスキルが必要である。「男病」にかかっていると、関係性に優劣や勝ち負けを持ち込みがちなので、定着は非常に難しくなる。

もちろん中には、様々な経験から学び、自分自身と向き合って、新たな関係性づくりを実践している男性もいる。重川さんもその一人で、典型的サラリーマンだった40歳の時に思いがけずシングルファーザーとなり、子育てと仕事の両立に悩み苦しんだ「生き地獄」の経験を持つ。そこから「人生の知恵は女性に学べ」という結論に至った。著書『父子家庭が男を救う』にはその過程が克明に描かれている。「男病」から抜け出したい男性、「男病」の夫から抜け出したい女性、いずれにもオススメだ。

『父子家庭が男を救う』(論創社)