ヒトリおしゃべり考房 Cinéma de carrière【序章】

みなさんも「人生は航海のようなもの」という表現をどこかで耳にしたり、書かれているのを目にしたことがあるのではないでしょうか。ここでは誰が最初に言い出したことなのかを探ることはしませんが、アレキサンダー・ポープという英国の詩人はこんなふうにいっています。

「私たちが航海している人生と言う大きな海では、理性は羅針盤、情熱は疾風である」

ポープという人は大航海時代といわれた頃のちょっと後に生きた人ですから、未知の大陸を探して大海原を帆船で探検するイメージと人生を重ねたのでしょう。先がわからない世の中では理性にそって選択し、情熱をもって行動することが人生を切り開く、そんなメッセージだととらえることもできるかもしれません。

人生100年といわれる時代になって「人生の豊かさって何だろう?」という問いが私たちに投げかけられているように感じます。豊かさを何に感じるかは人それぞれですが、自分の生きかたに納得して人生を受けいれていこうとする姿勢、自分自身に向き合うことはいっそう必要な時代になってきたのは確かなようです。

キャリア・カウンセリングではクライエントの方にこれまでの人生を振り返っていただいて、持っている知識やスキル、経験などをあらい出していただく「棚卸し」というセッションをすることがあります。そして、ただ作業として「棚卸し」をするのではなくて、振り返るときに自分の人生を「どのように語っているか」ということに着目することもあります。自分の人生をその人がどんな“物語”としてとらえているかを整理して、前向きに人生に意味づけしようとするプロセスです。この時に大事なのは、その人の“物語”をストーリー(内容)とナレーティング(語り方)にわけて聴くことです。

さて、私が担当するこのコラムでは、映画作品を題材にして、これからの時代の生きかたや働きかた(ひろい意味でのキャリア)についてカジュアルに書いていきます。取りあげる作品はすべてフィクション、物語です。題材にした作品のストーリーで、キャリアについて「何をどう語れるのか」ということをやってみたいと思っています。そこには、人生という航海での私自身の「羅針盤」や「疾風」になっているものが浮かび上がってきそうな気がしています。そして、コラムを読んでくださった皆さんが映画作品をみて自分のキャリア(生きかたや働きかた)を考えるとき、同じようにそれぞれの「羅針盤」や「疾風」に気がつくかもしれません。

何人かの方が読んでくださって、さらにその中から「いっしょに映画でキャリアを語ってみたい」という声が聴こえてきたら、いつか、リアル版の「みんなでおしゃべり考房 Cinéma de carrière」を開催したいとひそかにたくらんでいます。

★ 次回 第1話 作品予告
「ネバーエンディング・ストーリー」(1984年、西ドイツ・イギリス)
監督:ウォルフガング・ペーターゼン


〜執筆者プロフィール〜

中村 容(なかむら よう)
学生の就職支援に携わったのをきっかけに、働き方や暮らし方の選択をとおして人が成長していくプロセスに関わるキャリア支援の魅力にはまる。現役世代のキャリアシフトを支援する「まちのキャリアラボ」や小さな映画館シネコヤで映画作品から暮らし方や生き方を考えるイベント「おしゃべり考房」など、地域をフィールドにキャリア支援に取り組んでいる。地域活動での肩書きは「まちのキャリアデザインマスター」。本業は大学職員。