ヒトリおしゃべり考房 Cinéma de carrière【第18話】映画「ライフ・イットセルフ」de キャリアを横に置いて愛を

もうずいぶん前から、私はあまりテレビをみない(ほうだと思っている)生活になったような気がしますが、昭和40年生まれですから子どもの頃から普通によくテレビ番組をみていました。ジャングル大帝レオ、ムーミンなどのアニメからはじまって、ウルトラマンや仮面ラーダ―などの実写・特撮ヒーローもの。中学生くらいになると青春ドラマや時代劇。大学生のころは社会や世界に目を向け始めた時期でドキュメンタリーが面白かった印象がありますが、バブル期だった20代前半はトレンディードラマでしょうか。もちろん歌番組やスポーツもみていましたが(バラエティはあまりみなかったかな)、具体的に思い浮かんでくるのはフィクションばかりです。いまでも選んではいますがドラマは大好きです。NHKの大河ドラマは毎年欠かさずみていますし、今は「ここは今から倫理です」を録画して楽しくみています。そして、海外ドラマも。まんなかタイムスの発行人が大好きという韓国ドラマはいまのところみていませんが(笑)。

今回のCinéma de carrière(シネマ・デ・キャリエール)は、好きでみていた海外TVドラマの製作者がつくった映画「ライフ・イットセルフ」を題材に、キャリアの話は横に置いておしゃべりしたいと思います。そういう意味では、いつもとはちょっと違ったコラムになりそうです。

この作品はゴールデン・グローブ賞を含む38の賞を受賞した大ヒットドラマ「THIS IS US/ディス・イズ・アス」(16~19)の企画・脚本・製作総指揮を手掛けたダン・フォーゲルマンが、何十年もの歳月、二つの大陸、二つの言語にまたがる壮大な家族の物語を書き上げ、自らメガホンを取ったアメリカ映画です。

 

 

ストーリーと画像(『LIFE ITSELF ライフ・イットセルフ』公式サイトより)

https://life-itself.jp/

始まりは、現代のニューヨーク。学生時代からのカップルのウィルとアビーは大恋愛の後に結ばれる。第一子の誕生を
間近に控え幸福の絶頂にいたその時、想像を絶する事故に遭遇してしまう……。そして、たまたま訪れたマンハッタンで、
その顛末に深く関わった幼い少年。彼は海を越えたスペインの大地で、両親と父の雇い主であるオリーブ園のオーナーを、
ドラマティックな人生へと誘っていく。次々と訪れる過酷な試練を愛だけで乗り越えていく二つの家族は、数奇な運命に
引き裂かれながらも、思わぬ奇跡でつながっていく──。 


 

「過酷な試練を愛だけで乗り越えていく」というストーリー説明、まあ、そのとおりなのですが、私はむしろ愛があっても(強い愛があるからこそ?)乗り越えられない登場人物たちをとおして語られる人間賛歌の物語だと思っています。たとえば物語のはじまりの主役であるウィル、そして中盤過ぎの主役となるハビエル。この二人の選択に私は少し不可解さを感じ、映画を見終わった後もしばらくはストーリーのひっかかりになっていました。ウィルは学生時代からの恋人アビーを強く愛し、結婚してもその愛はかわらず二人の間に子どもが生まれようとしていました。そんなウィルを過酷な試練が襲うのですが、これほどの強い愛を持つはずのウィルがなぜ? ハビエルは寡黙だけれど固い意志を秘めた愚直な農場労働者ですが、ボスの信頼の下で恋人イザベルと結婚し幸せな暮らしを手にします。息子もすくすく育つ中で彼にも予想もしない試練が訪れるのですが、これほどの誠実で固い意志をもつハビエルがなぜ?もし、この映画をご覧になれば、私と同じポイントで違和感を持たれる方もいらっしゃるのではないかと思いますが、それこそがこの物語が語りたいポイントなのかもしれません。

 

 

この作品には「人生に屈服する」というセリフが何度か出てきます。まんなか世代まで生きてくると、一度はそのように表現したくなる経験をされたという方も少なくないのかもしれません。ここで披露することはいたしませんが、私も20代のころ、まさに「人生に屈服しそうだった」と表現しても許してもらえそうな状況を経験しました。ハートウォーミングなTVドラマ「THIS IS US/ディス・イズ・アス」をみていたので、そのイメージをもって題材に選んだ映画ですが、そんな期待はよい意味で大きく外れ、今でも話しはじめたら声と指先が小さく震えだすだろうと想像できる出来事を思い出させられました。けれど、気持ちが沈んだとか見なきゃよかったとかいう負のエネルギーが湧いてくることはなく、正のエネルギーの在り処を感じさせるのがこの映画の力かもしれません。

私はその屈服しそうだった出来事を引きずっているわけでもなく、目を背けて封印してきたわけでもないのですが、この物語からあらためて気づかされたことが二つあります。こうして「ライフ・イットセルフ」という映画を選んで見て、人生に屈服しそうだった試練を思い出し、そのことをコラムに書いている私は試練を乗り越えたのだろうということが1つ。もう一つは、乗り越えられたのは私を支える愛が間違いなくあって、その中には人生に屈服してしまった人たちの愛もつながっているのだろうということです。

今回はいつになく個人的な思い出に寄った内容になり、普段はほとんど口にしない愛なんていう言葉まで使って表現しましたが、これも映画を題材にしていれば許されるような気がしてのことかもしれません。映画「ライフ・イットセルフ」は残りの人生でまだ何度かみることになりそうな予感がする作品です。

2019年11月の劇場公開を楽しみに待っていた映画。タイトルだけでもCinéma de carrièreのコラムにドンピシャ!だと大いに期待していたのですが、映画館へ足を運ばないまま気づいた時には上映期間を過ぎていてがっかりしたのが1年ほど前。そして、見逃してしまったことも忘れてしまうということは、この映画に限らず何度も繰り返しているのですが、実はこのコラムが見逃してしまった映画を掘り起こすよい機会にもなっています。そして、もっと丁寧に向き合ってもいいはずなのにスルーしてきた自分の人生のエピソードを掘り起こすのにも。

 


〜執筆者プロフィール〜
中村 容(なかむら よう)
学生の就職支援に携わったのをきっかけに、働き方や暮らし方の選択をとおして人が成長していくプロセスに関わるキャリア支援の魅力にはまる。現役世代のキャリアシフトを支援する「まちのキャリアラボ」や小さな映画館シネコヤで映画作品から暮らし方や生き方を考えるイベント「おしゃべり考房」など、地域をフィールドにキャリア支援に取り組んでいる。地域活動での肩書きは「まちのキャリアデザインマスター」。本業は大学職員。

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