ヒトリおしゃべり考房 Cinéma de carrière【第17話】映画「イエスタデイ」de 夢の実現と功績

外出自粛の息苦しい生活を楽しむ手段がSNSを活用していろいろ編み出されてきました。イタリアではじまったらしいベランダで歌う、イギリスからは散髪に行かないモジャモジャ頭を自慢し合う、など、多くは海外から持ち込まれたもののようですが、日本でも「バトン企画」といわれる楽しみ方も広がりましたよね。企画に乗って参加した方も少なくないかもしれません。そうしたバトンものの一つに「7日間ブックカバーチャレンジ」という企画がありました(まだやってる?)。読書文化の普及に貢献するためのチャレンジで、参加方法は好きな本を1日1冊、7日間投稿するというもの。ルールは2つだけ。①「本についての説明はナシで表紙画像だけアップ」②その都度1人の友達を招待し、このチャレンジへの参加をお願いする。バトンはまわってきませんでしたが、私がこの企画に触れたのはFacebookです。

この「7日間ブックカバーチャレンジ」に限らず自分がイイと思った本を誰かに薦めたくなる気持ち、特に本好きの方の中には強くあるかもしれません、私も含めて。若いころ、好意をもった女性に調子にのってアレコレ薦めてひかれた苦い記憶がよみがえってきます(笑)。それはさておき、近年は自分が見つけた、出会ったイイ本を誰かに薦めたいという個人の思いが、シェア型本屋の店主というかたちでプチビジネス、シゴトにもなってきています。セレクトショップという形態やバイヤー(買い付け人)という職種にも似ていますし、キュレーター(広義)という役割を担っているキャリアということにもなりますね。

今回のCinéma de carrièreでは映画「イエスタデイ」を題材に、イイものを掘り出す、薦める、伝える、遺していくというキャリアについておしゃべりしてみたいと思います。新年1月に取り上げる映画が「イエスタデイ」という過去を想起するタイトルというのもどうかと思ったのですが。。。「イエスタデイ」というと、まんなか世代じゃなくても多くの人はザ・ビートルズの名曲を思い浮かべるかもしれません。この映画はザ・ビートルズの楽曲に乗せて展開される2019年にイギリスで製作されたコメディタッチの音楽ラブストーリーです。

 

 

映画「イエスタデイ」 ストーリー(NBC UniversalEntertainnment Japanホームページより )

http://db2.nbcuni.co.jp/contents/hp0002/list.php?CNo=2&AgentProCon=41318

売れないシンガーソングライターのジャックが音楽で有名になるという夢をあきらめた日、12秒間、世界規模で謎の大停電が発生?
真っ暗闇の中、交通事故に遭ったジャックが、昏睡状態から目を覚ますと・・・

 あのビートルズが世の中に存在していない!

 世界中で彼らを知っているのはジャックひとりだけ!?

ジャックがビートルズの曲を歌うとライブは大盛況、SNSで大反響、マスコミも大注目!
すると、その曲に魅了された超人気ミュージシャン、エド・シーランが突然やって来て、彼のツアーのオープニングアクトを任されることに。
エドも嫉妬するほどのパフォーマンスを披露すると、ついにメジャーデビューのオファーが舞い込んでくる。
思いがけず夢を叶えたかに見えたジャックだったが―。

 

皆さんならどうしますか?昨日までは当たり前に知られていたことが、今日になったらそれを知っているのは自分だけの世界。自分が発見したり発想したり、創り出したりしたものではないけれど、それを発表したり表現したりすると自分以外の人からはオリジナルなものとして受け取られるとしたら。既に存在するものをコピーするだけで、注目され、賞賛され、成功を手に入れられるとしたら、抗いがたい誘惑ですよね。そういえば、開催が危ぶまれている東京オリンピックですが、最初に選ばれたロゴデザインが盗作の疑いが指摘されて選定しなおされたということもありました。

この映画の主人公ジャック・マリックの場合は、そういう状況に意図せず陥っていきます。ジャック自身が整理できずためらっているうちに、周囲の驚きや期待などの善意に押し流されるように夢見ていたミュージシャンになっていきます。誰にも悪意はなく、迷惑もかけずに自分の夢がかなっていく人生。私ならどうするだろう?いつかバレルかもしれないとビクビクしながらも、甘い誘惑にどっぷり浸かっていきそうな気がします(笑)。主人公のジャックも周りの期待と欲が高まるほど、心の中の罪悪感や不安と体感的な興奮の葛藤が少しずつ膨らんでいきます。正直に打ち明けたくても容易に信じてもらえるとも思えないし、かないつつある夢を自ら手放す勇気も持てない。私はこういう健全なジャックの弱さに魅力を感じながら映画をみていました。夢の実現て何?

 

ラブストーリーなので、ジャックを支える存在として幼馴染みで中学校の音楽教師として働いているエリーが登場します。多くのラブストーリーでよくあるように、ジャックが成功の階段を上るにつれてエリーとの関係は離れていきます。エリーは世界の記憶や記録からビートルズが消えてしまう前からジャックがミュージシャンとして成功することを信じて、仕事をつづけながらマネージャー兼ドライバーとして支えています。でも、成功が見えてきた時には、自分の仕事である音楽教師として生きることを選択するのです。応援する相手の夢に自分のキャリアを依存するタイプの方に現実の世界では時々出会うことがあるのですが、エリーはそうじゃないところが魅力です。この選択もジャックの葛藤に影響を与えます。

物語の終盤、はエリーのほかにもジャックの葛藤に影響を与える人物が3人登場します。本当はこの先の展開が今回のおしゃべりのテーマに関わることなのですが、最近の作品でもあるのでネタバレにしちゃうのはもったいないので、、、というのが今の私のささいな葛藤です(笑)。でも、ちょっとだけ。

「ビートルズのない世界は、たまらなく退屈な世界よ」

罪悪感に苦しむジャックに贈られた感謝のことばです。この言葉は、オリジナルか盗作かという議論が所有の問題だということを思い出させてくれます。ジャックがしたことは、蘇らせたというシゴト、発掘したというシゴト、遺すというシゴト、そのことで多くの人をハッピーにするという功績なのかもしれません。エリーと同じように、ジャックは元音楽教師。その職を辞めてミュージシャンを目指していました。英語ではteacher ですが、日本語にすると先生ですよね。先に知った者が後に続く者に伝え遺す。ジャックは幸せな人生をつかめるか、気になる方は是非、作品をご覧ください。本物のミュージシャンのエド・シーランも出演していますし、最終盤にはソックリさんがあの人の役で登場します。

 


〜執筆者プロフィール〜
中村 容(なかむら よう)
学生の就職支援に携わったのをきっかけに、働き方や暮らし方の選択をとおして人が成長していくプロセスに関わるキャリア支援の魅力にはまる。現役世代のキャリアシフトを支援する「まちのキャリアラボ」や小さな映画館シネコヤで映画作品から暮らし方や生き方を考えるイベント「おしゃべり考房」など、地域をフィールドにキャリア支援に取り組んでいる。地域活動での肩書きは「まちのキャリアデザインマスター」。本業は大学職員。

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