ヒトリおしゃべり考房 Cinéma de carrière【第16話】「ラスト★クリスマス」de キャリア・デザインの「デザイン」て何?

好きなクリスマスソングは?と質問された瞬間に、私の耳の奥ではもう山下達郎さんの「クリスマス・イブ」が流れています♪ 世界中にはどれもこれも素敵なクリスマスソングがたくさんありますが、まんなか世代のみなさんの耳の奥では他にも、松任谷由実さんの「恋人がサンタクロース」やイギリスのポップデュオ「ワム!」の「ラスト・クリスマス」が流れはじめたのではないでしょうか?

ところで、これらの曲がヒットしていた当時、みなさんは「クリスマス・イブ」や「ラスト・クリスマス」をどこで、ナニで聴いていましたか?家のリビングにあった大きなステレオで、自分の部屋のミニコンポで、遊びに行った親友の部屋のラジカセで、街を歩きながら「ウォークマン」で、車のカーステレオで(これは大人になってからかな?)というあたりでしょうか。「ウォークマン」はまんなか世代の私たちが中学生、高校生のころに世界中で爆発的に売れた携帯音楽プレイヤーの商品名ですよね。好きな音楽をカセットテープに録音して、ポケットに入れた「ウォークマン」につないだヘッドホンで聴きながら街を歩く。技術開発が進んでiPodやスマートフォンで手軽にどこでも音楽を楽しむことが今となってはありきたりな日常ですが、当時はとても新しくて画期的、カッコいいスタイルとして強烈に印象に残っています。

さて、ここから今回のテーマ、デザインの話です。この「ウォークマン」の開発者たちがデザインしたのは何だったのか?モノづくりとして狭義にとらえるならば、形、色、サイズ、機能ということになるでしょう。そして、もう少し視点を広げてデザインの意味を広義にとらえた場合、次のように言われています。

「ウォークマンの開発者たちがデザインしたのは、好きな音楽を屋外へ持ち出して楽しめる新しいライフスタイル」

こう説明されると、キャリアの後ろにデザインというワードがついても変な違和感はなく、キャリア・デザインもそんなふうに捉えればいいのかと、イメージの助けになるような気がします。

 

今回のCinéma de carrièreでは、クリスマスの定番ソングとして世界中で愛されている「ワム!」の「ラスト・クリスマス」という曲をモチーフに、イギリスのオスカー女優エマ・トンプソンが原案・脚本・出演と3役を果たしたロマンチックコメディ映画「ラスト★クリスマス」を題材に、キャリア・デザインの「デザイン」て何だろう?についておしゃべりしてみたいと思います。この作品は2019年に公開されたアメリカ映画です。

 

 

映画「ラスト・クリスマス」 ストーリー(NBC Universal Entertainment Japanホームページより )

http://db2.nbcuni.co.jp/contents/hp0002/list.php?CNo=2&AgentProCon=40516

ロンドンのクリスマスショップで働くケイトは、小妖精の格好をしてきらびやかな店内にいても仕事に身が入らず、生活も乱れがち。
そんなある日、不思議な好青年トムが突然現れ、彼女の抱えるいくつもの問題を見抜いて、答えに導いてくれる。ケイトは彼にときめくけ
れど、ふたりの距離は一向に縮まらない。トムを捜し求めつつ自分の心の声に耳を傾けたケイトは、やがて彼の真実を知ることになる……。

主人公のケイトは、子ども時代に旧ユーゴスラビアからイギリスに逃れてきた移民です。カタリナという本名も、母親も、姉も、自らの過去そのものも嫌いながら、歌手を夢見てオーディションを受ける日々を送っています。けれど、たいした努力もしていないのですから当然のように落選し続け、自暴自棄になって友人たちにも自分勝手に振る舞い、さじを投げられてしまいます。こんなシチュエーションで謎の青年トム・ウェブスターに出会い、クリスマスを背景にロマンチックなストーリーが展開するという立て付けの作品ですが、随所に人種や貧困、ジェンダー、アイデンティティという個人のキャリアの土台となる要素が織り込まれています。

自分にまつわる多くを嫌うケイトが描くキャリアは歌手になること。「将来の夢は?」とか「大きくなったら何になりたい?」という小学生に向けられるような質問の答えの延長線上程度で「歌手になりたい」と。その夢がかなえば、嫌っていることすべてが消えてなくなる、問題が解消すると錯覚しているかのような未熟な夢でしかありません。と、ケイトの未熟さを指摘したところでハッとしました。そんな私も若いころはもちろん、まんなか世代の中年になった今も、自分が嫌っている自分にまつわる問題がいつか自然に解消するという錯覚を抱いている、または忘れたふりをして人生を送っているのかもしれないと。たとえば親とのわだかまり、たとえば過去に引き起こした失敗の後悔、たとえば相対的ないくつかのコンプレックス。みなさんはいかがですか?自分が嫌っている自分にまつわる問題に向き合っているといえますか?

 

 

作品の中で重要な役割を果たす謎の青年トムは、ケイトが落ち込んだり困ったりしている時にタイミングよく現れて彼女に朗らかに寄り添います。そのたびに彼女は少しずつ気づきを得て、そして彼はフッと音信不通になるという繰り返しの展開が続くのですが、初めてトムがケイトを自分の住まいへ招き入れた夜に落ち込んで弱音を吐く彼女にこう言います。

「イイことをすればいい。日常の小さな行動がその人の人格をつくる。つまり人は自分のすることでつくられる。」

翌日からケイトはこの言葉のとおりに行動しはじめます。「歌手になりたい」という未熟な夢も、にわかにキャリア・デザインっぽくなっていきます。無意識かもしれませんが、自分が持つ「歌う力」を使って身近なところ、たまたま縁ができたところでイイことを始めてみることで、「歌う」というアウトプットのその先、自分が歌うことで何が起こせるのかというアウトカムに心が向かうという変化が起きてきます。キャリアをデザインするということは、何かになる(職業に就く)とか何かができるようになる(能力をつける)ということの先に、自分がすること(シゴト)を通じてどんなことを起こしたいか、実現したいか、誰をハッピーにしたいかを想像すること。ケイトの小さな行動は少しずつまわりの人の心を動かし、行動にも変容をもたらすことになっていきます。この時、ケイトがしたことは歌を歌うこと(アウトプット)ですが何が起きるか(アウトカム)は観てのお楽しみに。

ところで、トムの言葉をケイトが素直に受け入れて、嫌っていたこと、自分の心に向き合えたのは恋のせい?それだけではないはずですよね、クリスマス映画ですから。是非、作品をご覧になって確かめてみてください。ロンドンのクリスマス風景も素敵です。今年も、一人でも多くの人におだやかなクリスマスでありますように。

 


〜執筆者プロフィール〜
中村 容(なかむら よう)
学生の就職支援に携わったのをきっかけに、働き方や暮らし方の選択をとおして人が成長していくプロセスに関わるキャリア支援の魅力にはまる。現役世代のキャリアシフトを支援する「まちのキャリアラボ」や小さな映画館シネコヤで映画作品から暮らし方や生き方を考えるイベント「おしゃべり考房」など、地域をフィールドにキャリア支援に取り組んでいる。地域活動での肩書きは「まちのキャリアデザインマスター」。本業は大学職員。

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