ヒトリおしゃべり考房 Cinéma de carrière【第15話】

「マイレージ・マイライフ」deテレワークは物足りない

毎年この時期になると、その年の世相を表す「新語・流行語大賞」が選ばれます。11月に入ってから発表されたノミネート30語の中には、「あつ森」や「鬼滅の刃」「愛の不時着」などお楽しみエンタメ系のことばもありますが、全体を見てみると、やはり「3密」「ソーシャルディスタンス」「エッセンシャルワーカー」などコロナ禍にまつわることばが多く含まれていて、やっぱりそうだよねという感じがします。その30語の中に、私が最近気になっていることにも関係する「テレワーク」も含まれていました。全国に緊急事態宣言が出された4月16日ころから出社せずに在宅で仕事をするテレワークという働き方が一気に広がりました。徐々に以前の勤務体制に戻っている皆さんも多いようですが、大手企業を中心に半年を過ぎた今もテレワーク継続中という方も少なくないようです。テレワーク中の知人の話しでは、本来は出張が多い仕事で全国を飛び回っていたけれど今はパソコンでのオンライン通信と電話でほとんどの仕事が済んでいる、とのことです。時間も費用も格段にかからなくなり、ビジネス的には効率的で「業務としてはずっとこのままでいいのではないかと思える」と言った後、知人は「でもね、家や近所のコワーキングスペースだけで仕事をしていると何か物足りない」と言い加えました。

今回のCinéma de carrièreでは、映画「マイレージ・マイライフ」を題材に、知人が口にした「物足りない」の中身をおしゃべりしてみたいと思います。

「マイレージ・マイライフ」は2009年に製作されたアメリカ映画で、主役のジョージ・クルーニーをはじめメインキャスト3人全員がアカデミー賞ノミネートという快挙を成し遂げて世界の注目を浴びた作品です。リストラ、転職、ネット社会、人間関係、シングルライフ、ポイント生活、価値観、依存症、ワークライフバランス・・・現代社会の様々なキーワードがストーリーに埋め込まれていて、多くの人にとって無関係ではいられない人生の課題の数々を描いています。

 

ストーリー(角川映画公式サイトより )

映画「マイレージ・マイライフ」

https://www.kadokawa-pictures.jp/official/up_in_the_air/index.shtml

年間322日も出張するライアン・ビンガムの仕事は企業のリストラ対象者に解雇を通告すること、つまりプロの“リストラ宣告人”。
「バックパックに入らない人生の荷物は背負わない」をモットーとする彼は、夢の1000万マイル達成をすぐ目前にし、しがらみから自由な生き方を楽しんでいた。
そんなライアンに二つの出会いが訪れる。一人目は彼と同じく出張族のアレックス。気軽な大人の関係とお互い割り切って情事が始まる。もうひとつの出会いは
新入社員のナタリー。ネット上で解雇通告を行い、出張を廃止するという合理化案を会社に提出しており、ライアンの立場と1000万マイルの達成を危うくする存
在だった。異なる年代の二人の女性との出会いをきっかけに、人を“切る”ことで生きてきた男が“つながり”の大切さに気づいていく・・・。


 

私がこのストーリーで面白いなと思ったのは、主人公ライアンの人とのつながりについての2面性です。自己啓発セミナーの講師も務めている彼は講演の中で「自分の人生で、自分のものだと思うものをすべてこのバックパックにつめてみてください。最初はもの。次はあなたを取り巻く人を。人間関係のわずらわしさが、あなたの人生でもっとも重いものだということがわかるでしょう。」と説きます。そんな彼が、解雇宣告人のプロとして譲らないのは宣告する相手には必ずリアル対面で直接伝えるという手法です。若手社員がテレビ電話システムで解雇通告するシステムを推奨し、会社も費用削減、効率化の観点から検討をはじめるとライアンは猛反対します。無感覚で孤立感を与えてしまうからうまくいかないと。成果を出すためには当人の感情にも配慮して、非効率と思われる対面のほうがむしろ効率がいいのだという理屈で反対するのですが、人間関係のわずらわしさが人生でもっとも重いものだから背負わないことを説いて実践している一方で、孤立感を生まないことの大切さはしっかり認識しているのですから面白い。

 

 

また、ライアン自身の生活に目を向けると、解雇を宣告される人の孤立感を和らげるために「空港と飛行機が私の家だ」と言い切るほど出張三昧の日々。この生活でライアンは孤立感を味わっていないのか?ストーリーではその点を軸として展開されていくのですが、私はライアンが出張先で対面する解雇される人たちとの間につながりを感じていたのかもしれないと想像するのです。わずらわしくて最も重いものだとして切り捨ててきた、もしかすると逃げてきた人とのつながりだけれど、意識していない「つながり欲求」から出張先での見知らぬ人とのリアル対面を求めて絶え間なく国中を飛び回っていたのかもしれないと。彼は出張の度に増えていく航空会社のマイレージが、アメリカ史上最年少で1000万マイルに達することも楽しみにしています。ライアンにとってマイレージは人とのつながりを実感できるバロメーターになっているような気がします。

いま、首都圏に多くいるかもしれない長期テレワークという働き方の営業職ビジネスパーソンの中にもプチ・ライアンがいるかもしれません。仕事中心の生活で、会社関係以外に会う人は家族のほかには本当にごくわずか。挨拶やちょっとした日常会話をする交わす知人はいるけれど、つながりを感じられる人間関係と言えるものが思い当たらない。これまでは、会社で同僚に会い、仕事先で人に会い、なんとなく人間関係のようなものは実感できていた。それが、テレワーク、オンラインだけでのつながりが長期化してくると何か「物足りない」。「つながり欲求」の欠乏感。

新語・流行語大賞に話しを戻しますが、私は「不要不急」がノミネートされていないのがちょっと残念です。人が誰かと会う、人と人が集うのはどうしても必要な用事があるときばかりではないですよね。仕事の場合、どうしてもリアル対面じゃなければ遂行できない業務以外は不要不急とみなされて、オンラインに切り替えられました。やってみたら思った以上に機能することがわかってきて、効率化や働き方改革の観点からも常態化する動きも出てきています。そうなっていく過程で、リアルな対面やリアルに集うことは「不要不急」ではないけれど私たちが健康的に暮らしていくために「要」だよね、という感覚が置き去りにならなければいいなぁと願っています。通勤や出張も度を超すと、それはそれで厄介ですけれどね。

 


〜執筆者プロフィール〜
中村 容(なかむら よう)
学生の就職支援に携わったのをきっかけに、働き方や暮らし方の選択をとおして人が成長していくプロセスに関わるキャリア支援の魅力にはまる。現役世代のキャリアシフトを支援する「まちのキャリアラボ」や小さな映画館シネコヤで映画作品から暮らし方や生き方を考えるイベント「おしゃべり考房」など、地域をフィールドにキャリア支援に取り組んでいる。地域活動での肩書きは「まちのキャリアデザインマスター」。本業は大学職員。

 

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