『ぐるぐるゆるっと子育て@高齢出産』vol.11(下) いよいよ出産!!

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緊急帝王切開に決めてから、15分ほどで手術室に歩いて移動しました。子宮の収縮、陣痛は続いています。足元がふらついてまっすぐに歩けない状態だったので、助産師さんと看護師さんに両脇を支えられて向かいました。

手術室には、医師の他に助産師さんと看護婦さんが数人待ち構えていました。
「あれ~、42才って聞いてるけど、意外と若いね~」
動転してはっきりしない意識の中で言われたその言葉が今でも忘れられません。
おそらくその人は妊婦の緊張を解くためだったのかもしれませんが、私にはとても笑えたものではありません。帝王切開といえども生まれて初めての手術。緊急だったために知識も心の準備も追いついてはいませんでした。

小さな手術台に仰向けに横になりました。

手術台は小さくて、婦人科の診療台のようになっていて、股を開いているのです。
「まるで仰向けのカエルだな」と思いましたがもはや言われた通りにするしかありません。

胸より下が見えないように隠されて手術が始まりました。
局所麻酔なので会話や物音が聞こえていました。
「さあ始めます」
皮膚を切る音が聞こえたような気がしました。
「子宮を切りますよ~。あ、赤ちゃんと目があった!元気だよ、大丈夫」
それからは鈍い感覚の中でお腹をぐいぐいと押されているような気がしました。
少しして。
「よおし、赤ちゃん出た!」
「産まれましたよ、元気な男の子だよ」と。

「ちょっと待っててね」という声を残して、赤ちゃんは手術室内のどこかできれいに拭いたりへその緒の処理をしてもらい、体重や身長などを計測している音や声が聞こえてきました。
朝の点滴開始からついてくださっていた助産師さんの「無事に産まれてよかったよかった。かわいい子だね~」という声を聞いて、涙があふれてきました。
ひとときしておむつカバーだけあててもらった我が子を顔のそばに連れてきてもらって初対面しました。
元気に「おぎゃぁ~、おぎゃぁぁぁ~」と泣いています。
「ありがとうございます。ありとうございます」と何度も言いましたが、涙にむせんで声になりませんでした。
手に触れることも抱くこともできない。
あとになって聞いたのですが、私が手術室に移動して以降、朝から付き添ってくれていた相棒には、なんの案内も説明もなかったそうで、新生児室の前で待ちながら、ひとりひとり「我が子かも」と確認したそうです。
夫婦揃って感動の対面をと想像していたのですが、実際は実に味気なく。抱けない私のかわりにせめて相棒に抱いてやってほしかったと、少し先になって振り返ったときにさみしく、悲しくなりました。出産の知らせは、父のお通夜の開始10分前に義父に電話で伝えられ、会場にいた皆にも伝わりました。「生まれ変わりだね」と斎場のあちらこちらでささやきが聞こえたそうです。

入院したときは3人部屋でしたが、ストレッチャーが入らないということで術後は個室へ。
帝王切開した場合は、赤ちゃんは新生児室で預かりというので、その日の夜はひとりで過ごすことになりました。

出産から4~5時間が経過したときに尿意をもよおしました。
個室の中にはトイレがあったのですが、ベッドからは5mほど歩いていかなくてはなりません。
身体を起こそうとするだけでお腹に鋭く強い痛みが走ります。
「うぅぅぅぅぅぅ。ぐぐうっ。」と唸りながら起きあがり、トイレをすませました。
あの時の痛みは地獄のようで、切腹したお腹でよく動いたものです。

何年もあとになって帝王切開について経験者と語る会に参加したときに、「尿カテーテルは?」と聞かれて、処置が漏れていたことに初めて気がつきました。
尿意をもよおしたときに、どうしてベルで看護師さんを呼ばなかったのだろう。その時の私はやっぱり混乱していて、冷静な判断力を失っていたのだと思います。
眠りたいのに眠れない。傷の痛みとともに父のことを思い、涙にくれながら夜は更けていきました。

相棒は新生児室の息子の姿をビデオカメラに納め、翌朝父の葬儀に向かってくれました。葬儀の前に棺に眠る父に見せてくれたそうです。

私は昼を過ぎた頃、点滴台にしがみつきながら新生児室まで歩いていきました。お腹の傷と子宮が収縮する痛みに歯を食いしばって、なんとかたどり着きました。そして、初めて息子を抱かせてもらいました。
壊れそうなほやほやの我が子の、瑞々しい命を感じながら、同時に二度と会えなくなってしまった父を思い、初めての授乳とオムツ替えをしました。
夢のように待ちに待ったわが子の対面は息子とふたりぼっち。
うれしいのだけど悲しくて寂しい。自分の身に起きていることを受け止めきれていないような、ハンマーで頭を殴られた余韻がずっと続いているような、例えようのない状態でしたが、息子のやわらかな温もりと、母子ともに無事であったことに感謝することで、なんとか自分を支えていたように思います。

 

 


<かもみぃみるのプロフィール>
1963年生まれ。41歳で結婚、42歳で出産した一人息子は現在中3。産後は体調を崩すなか、孤育てや介護、看取りも経験しました。音楽と踊りが大好きです。結婚までの、そして結婚後の様々な職歴と学びを活かして、数年前から女性の心身のウェルネスをサポートする講座やレッスンを行っています。「その人らしさを大切に。ゆるめること、ながめること、味わうことでよりよく生きる」を目指しています。

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