まんなか世代の公務員が探す『この先』のヒント Vol.10(中)

「公務員=リスク」という、もやもやした不安への向き合い方を学びたい。
そのヒントを求め、太田市でテレワークを活用したひきこもり支援をしている大橋志帆さんにお話を伺いました。
まんなか世代の公務員が探す『この先』のヒントVOL10(上)の続きです。


 

-ひきこもりの方の支援の「文書編集チーム」を始められたきっかけを教えてください。

大阪のNPO法人わかもの国際支援協会顧問・横山泰三さんからの提案がきっかけでした。この法人も、テレワークを活用したひきこもり支援をしています。横山さんの話では「ひきこもり経験者で、今は支援者になっている人達が、自分の経験を原稿にまとめました。このあと書籍化したいと思うのですが、うちの法人には校正する人がいないんです」とのこと。それなら私が校正を引き受けますと伝えると、「大橋さんが自分でやるのではなくて、校正できる人財を育ててほしいんです。校正できる人財が育てば、うちの法人とも協業できる。将来的には仕事につながるのではないかと思います。」との提案がありました。市役所の先輩達が私を育ててくれたように、今度は私が、将来を担う後輩を育てたい。そう思いながらも、目の前の仕事に追われ、実現できていませんでした。大学時代は文学部で、日本語の文法をテーマに研究していました。分かりやすい文章を書くための訓練も積み重ねてきました。自分のスキルを活用して人財育成できるのは嬉しいし、職場だけが人財育成の場ではないと思いました。ひきこもりの子を持つ親の会のメンバーを通じて参加希望者を募ったところ、2名の青年が立候補してくれました。市役所のOBが協力してくれることになり、活動をスタートしました。

 

-始められていかがでしたか。

さっそく横山さんから原稿をメールで送ってもらい、校正編集を始めてみました。プロジェクターでスクリーンに投影したり、大型モニター画面に原稿データを写したりして、編集会議の形式で協議しながら進めていきました。原稿を分割して個別作業するよりも、全員で同じ画面を見ながら検討するほうが良いと考えました。良い校正案が思いつかず、全員で考え込んでしまう場面もありました。私たちの作業は単なる誤字脱字のチェックではありません。ひきこもり当事者であった執筆者の思いや境遇を想像しながら、わかりやすい文章にすることに全力を注ぎました。横山さんからは急がなくても良いと言われていましたので、じっくり校正編集に取り組みました。最初は何もかもが手探り状態でしたが、回を重ねるごとに、チーム内で深いディスカッションができるようになりました原稿に書かれているのは、ひきこもり経験者の生の言葉です。自身の辛い経験や親子の衝突、葛藤を乗り越えて、今度はその人が支援者になっていきます。どうしたら誰もが排除されず、幸福を感じることができるのかといった、社会に対する提言も書かれていました。横山さんは「この取り組みは、文章を通じて『ひきこもり』の思いが交流する、地域を超えたひきこもりのコミュニケーションです」と評価してくれました。私たちは校正編集を通して、ひきこもり経験者のキャリアデザイン過程を追体験し、成長することができました。

文章校正のつぎは、紙資料のデジタル化作業や他団体と連携したウェブサイトの記事編集に取り組んだり、テレワークに関するブログ「鶴舞う形のぐんまからtelework」の作成も始めたりしています。この活動を通して人から認められた経験が、自己肯定感を醸成し、一歩前に進むエネルギーになると確信しています。

ブログ「鶴舞う形のぐんまからtelework」はこちら
http://telework0706.livedoor.blog/

 

-冒頭でお話のあったCOG(チャレンジ!!オープンガバナンス)のチラシをひきこもり経験者の方が作られたとのことでしたが。

チラシの作成はひきこもり経験者の方にたたき台を作ってもらいました。みんなで意見を言い合って、最初の原型をとどめないくらい修正しちゃったんですけど。修正された本人も覚悟してくれてやってくれました。気持ちの上でそのようになったことがすごいと思うんです。活動を始めた2年前は、意見を伝える時にとても気を使いました。当時、たたき台をどの程度修正するかは様子を見ながらだったんです。あなたを否定しているわけではない、より良いものにしようと思って意見を言っているんだということを理解してもらえるように、丁寧に説明しました。それを繰り返していくうちに、こちらの意図を受け止めてもらえるようになりました。自分が直接関わっている方が目の前で変わっていく様子を見ると、本当に嬉しいです。

 

-そもそもテレワークに興味をもったきっかけってなんですか。

国民健康保険の担当部署の時に、全国統一のシステムが導入されたことにより、大量のデータ入力が発生しました。私は上司に事業提案し、NPO法人に業務委託しました。そのNPO法人には、市で実施した「ひとり親家庭等在宅就業支援事業」で、パソコンスキルを身につけた修了生が会員として登録されていました。業務委託は、市で育成した人財の活用であり、市民協働ということです。私が別の部署に異動したあともNPO法人への業務委託は継続していました。ある時、NPO法人のスタッフと庁舎内で遭遇したのですが、なんだか浮かない顔をしているんです。話を聞いてみると、どうも行政とNPO法人の間で行き違いが生じている印象でした。「なぜこんなことになるのでしょう。この先、もう何も良いことはありません・・・」 目の前でNPO法人のスタッフが絶望しかけている様子は、私にとってすごくショックなことでした。「それは残念でしたね」という慰めの言葉では片づけられない状況でした。自分に何かできることはないかと考えました。このNPO法人の特徴といえば、ひとり親家庭の在宅就業支援であり、在宅就業という仕組みを普及させることにより、地域経済の発展に寄与することを目的としています。調べてみると在宅就業とは、テレワークという働き方の一つの形態であることが分かりました。テレワークについて勉強していくうちに、これは社会に必要な働き方であることが理解できました。

→ 下編に続く


 

〜執筆者プロフィール〜
上木 宇宙(うえき そら)
平日は、パッとしない公務員。土日は、「人生100年時代」の旅人。元気な100歳、『百寿者』を目指しています。まずは、健康第一。85歳までは、ほそぼそ働き続けたい。定年後、私ができる仕事は?人生100年時代、公務員の2大リスク「定年制」と「副業禁止」。その壁は壊さずに、なんとかよじ登ってみたい。登った先に、どんな景色が見えるのか?私の知らない景色を見ている、憧れの人生のセンパイたちを訪ねます。
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