ヒトリおしゃべり考房 Cinéma de carrière【第7話】

「セブンティーン・アゲイン」de 中年の危機を乗り越えるヒント

ミドル・エイジ・クライシス(中年の危機)という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?それまでの自分の人生を肯定的に受け止めることができず、「このままでいいのか」「自分らしく生きてきただろうか」などと悩む状態を指す発達心理学の領域で主に使われる言葉です。

「人生100年時代」といわれる現代で何歳くらいを「中年」と呼ぶのかは難しくなっていますが、心理学者レビンソンさんは人生を①児童・青年期、②成人前期、③中年期、④老年期と4つの発達期にわけて、それらをつなぐ3つの過渡期で人生は構成されると考えました。そのうちの2つ目の成人前期から中年期の過渡期に起こるとされるのがミドル・エイジ・クライシスです。ちなみに、レビンソンさんの理論は男性を対象とした研究から考えられたものなのですが、まんなかタイムスをお読みのまんなか世代の皆さんの中にも、性別に関係なく思いあたるという方も少なくないのではないでしょうか?その深刻さには差があるにしても、中年世代のおよそ8割はこの「危機」を経験するともいわれています。

今回のCinéma de carrièreでは、映画「セブンティーン・アゲイン」を題材に、中年の危機を乗り越えるヒントについておしゃべりしてみたいと思います。
「セブンティーン・アゲイン」は2009年にアメリカで製作され、その年に日本でも公開されたコメディ映画です。主演がイケメンの人気俳優ザック・エフロンだったこともあって、アメリカでは公開されると1週目にランキング初登場第1位となったヒット作品です。

ストーリー(映画「セブンティーン・アゲイン」ワーナー・ブラザース公式サイトより )
https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=2690/
1989年、ハイスクールに通う17歳のマイク・オドネルは、バスケ部のスター選手として活躍していた。有名大学のスカウトが見守る試合で、いつも
のプレイさえすれば、華々しい未来が待っているはずだった。ところが、恋人のスカーレットが妊娠したと知ったマイクは、すべてを捨てて、彼女と
人生を共にすることを決意する。20年後、マイクの栄光の日々は、完全に過去のものになっていた。スカーレットとの結婚は破綻し、会社では出世
コースから外され、思春期の娘と息子からは、負け犬呼ばわり。マイクは家を出て、ハイスクール時代からの親友の家に転がり込む。そんなマイク
がある日、不思議な現象に巻き込まれ、突然17歳の肉体に戻ってしまう。これで人生をやり直せると張り切るマイクは、かつて通ったハイスクール
に転入するのだが、37歳の中身が、あちこちで思わぬ邪魔をする。果たして彼は、人生で一番輝いていた頃の自分を、取り戻すことができるのか──?

1月のCinéma de carrière【第5話】で映画「ラ・ラ・ランド」を題材にして、人生の岐路での選択について「あり得たかもしれない別の人生」を想像しながらもオーナーシップを持ってこれからの人生を生きていくことが大事なのだろうとおしゃべりしました。今回の「セブンティーン・アゲイン」は、これからのオーナーシップを持って生きる人生の生き方について、ひとつのヒントが描かれている作品として題材にしてみました。

ミドル・エイジ・クライシスとも思える状況の主人公マイク(37歳)が、自分を取り巻く現実はそのままで、肉体だけが17歳の高校生に戻ってしまうというファンタジーではありますが、17歳からもう一度人生をやり直せるとしたらどんな風に生きようとするのかがテーマになっています。37歳のマイクがふらっと母校を尋ね、輝いていた「あの頃」に思いを馳せていると、突然現れた謎の用務員さんがこんなふうに声をかけます。

「マイク・オドネル! 会ったことはないが私は知っている・・・君らは母校に戻ってきては昔の栄光の写真を見つめる。今を嘆きながら過去から離れられん・・・きっとやりなおしたいんだろうな」
用務員の問いかけにマイクの口から出た言葉は
「そりゃ離れたくない・・・幸せだった・・・できればね」

20年前、高校でバスケットボールのスター選手だった彼は将来の成功につながる可能性が高い大学からのスカウトのチャンスを自らすてて、ガールフレンドと人生を共にすることを選択した。その選択の結果、20年後の今は現実を嘆きながら「幸せっだったあの頃」に戻って、できればやり直したいと思っているマイク・・・さて、ちょっと考えてみてください。彼は何をやり直したいのか、と。このシーンのマイクの心情を「あの時、別の選択(ガールフレンドをすてて奨学金で大学へ進学)をしていたら・・・」なのだろうと仮置きしてみると、謎の用務員さんが「離れられない」と指摘したのは、「あの時、別の選択をしていたら・・・」という思いを指しているようにも聞こえてきます。

この作品の面白いところは、主人公の肉体だけが20年前に戻ることろです。主人公自身が時間を遡って過去の世界に姿を現したり、時間が巻き戻されて自分も状況もすべてが過去からもう一度やり直すストーリとは別ものです。マイクが17歳として現在の高校へ通うわけですから、そこには自分の娘も息子もいて、その保護者として20年前のガールフレンドで離婚寸前の妻であるスカーレットもいるわけです。そんな状況の中でマイクがどんなふうに生きようとするのか。20年後に「いま」を嘆かないために何をするのか。それは、20年前に選ばなかったバスケットボールのスタープレーヤーを目指すことではなく、父として、夫として20年間してこなかったことを友の立場、娘や息子の友人の立場から自分の家族を見つめ、関り寄り添うことなんです。このことは、ストーリーの中ではマイク自身が気づいているわけではなく無意識にしていることで、この作品で描かれているのは、生きてこなかった人生を生きなおそうとしている中年の姿だとみることができます。

ファンタジーではなくて現実を生きている私たち中年にも、もしかしたら同じことができるのかもしれません。肉体的には衰えを感じ始め、社会的な立場にも変化が起き始めます。その状況は嘆かわしくて、自分が最も輝いていたころに思いを馳せて「あの時、もっと・・・」と悔やんだりしがちですが、そんな私たちが中年以降を豊かに生きていこうとするときに必要なのは、肉体も時間も戻りはしないけれど、これまで生きてこなかった(後回しにしてきてしまった)人生を今から丁寧に生きなおすということなのかもしれません。


201906nakamuraまんなかタイムス〜執筆者プロフィール〜
中村 容(なかむら よう)
学生の就職支援に携わったのをきっかけに、働き方や暮らし方の選択をとおして人が成長していくプロセスに関わるキャリア支援の魅力にはまる。現役世代のキャリアシフトを支援する「まちのキャリアラボ」や小さな映画館シネコヤで映画作品から暮らし方や生き方を考えるイベント「おしゃべり考房」など、地域をフィールドにキャリア支援に取り組んでいる。地域活動での肩書きは「まちのキャリアデザインマスター」。本業は大学職員。