ヒトリおしゃべり考房 Cinéma de carrière【第5話】

「ラ・ラ・ランド」de あり得たかもしれない別の人生

「もし、あの時に違う選択をしていたら今頃は・・・」と考えること、ありますよね。このコラムがアップされるのはちょうどクリスマス・ウィークです。ちょっとだけならファンタジーな時間を持つ自分を許すことができそうな方は、想像してみてください。「あの時」に違う選択をした自分の人生・・・

☆「あの時」とはいつ?
☆せまられたのはどんな選択?
☆いくつの選択肢があった?
☆どのくらい真剣に考えた?
☆その時の選択では何を大切にした?(or何を犠牲にした?)
☆違う選択をしていたら今の自分はどんな自分?

今回のCinéma de carrièreでは、映画「ラ・ラ・ランド」を題材に「あり得たかもしれない別の人生」についておしゃべりしてみたいと思います。
「ラ・ラ・ランド」は2016年に製作されたアメリカ映画で、女優になるために大学を休学しハリウッドのカフェで働きながらオーディション受け続けているミアと、古き良きジャズを愛するジャズピアニストで自分の店を持つことを夢見ているセブが主役のロマンティックなミュージカル映画です。アカデミー賞も受賞し日本でも大ヒットした作品ですので、ご覧になった方や大好きな方も多いと思います。

ストーリー(映画「ラ・ラ・ランド」オフィシャルサイトより https://gaga.ne.jp/lalaland/about.html)
夢を叶えたい人々が集まる街、ロサンゼルス。映画スタジオのカフェで働くミアは女優を目指していたが、
何度オーディションを受けても落ちてばかり。ある日、ミアは場末の店で、あるピアニストの演奏に魅せられる。
彼の名はセブ(セバスチャン)、いつか自分の店を持ち、大好きなジャズを思う存分演奏したいと願っていた。
やがて二人は恋におち、互いの夢を応援し合う。しかし、セブが店の資金作りのために入ったバンドが成功した
ことから、二人の心はすれ違いはじめる……。

この作品、大ヒットしたからこそでもあるのですが、物語のラストについてハッピーエンドかそうじゃないかという点で、鑑賞後の観客の議論もたいへん盛り上がりました。その議論の的となったラスト、セブが演奏するふたりの思い出の曲をバックに「あり得たかもしれないふたりの別の人生」がスクリーンに映し出されます。この妄想がミアのものなのかセブのものなのか、あるいはふたりが共有するものなのかは観客に委ねられるのでしょうけれど、多くの観客が期待する「でき過ぎ」なミアとセブの物語なのかもしれません。でも、ふたりの人生はそうではなかったというところが、最高にロマンティックなところなのだろうなぁと感じます。

ところで、みなさんに想像してみていただいたご自身の「あり得たかもしれない別の人生」はどんな物語だったでしょうか?具体的な内容は秘密とさせていただきますが、私はもちろん「でき過ぎ」な「あり得たかもしれない別の人生」を妄想したわけです (笑)。そうすると、そうはなっていない今の私の現実は、映画「ラ・ラ・ランド」のミアとセブの現実と同じように、「でき過ぎ」ではないからこそのロマンティックな人生っていえるのかな・・・?あっ、それには、お互いににかなえたい夢をもってピュアに取り組んでいて支え合える相手の存在が必要なのでしたね。

映画「ラ・ラ・ランド」はロマンティックな物語なのですが、私たちが今の時代に「別の人生」を考えることは、決して現実離れした「でき過ぎ」な妄想をめぐらすことではありません。「あり得た」ではなくて「あり得る」かもしれない実現可能な別の物語も想定しておくことなのだと思います。

実は、そのヒントもミアとセブの物語にもあります。ミアが実現したかった夢はハリウッドで女優になること。そのためにオーディションを受け続けています。それでもなかなか結果が出ない。いつまでこのチャレンジを続けるか、あきらめて大学へ戻るか、ミアは人生の岐路で決断ができないままでいるのですが、道を開いたのはオーディションではなく自作自演の舞台でした。自費で会場を借りて、ポスターを貼って、一人で稽古を重ねて幕を開けた舞台。その道へ背中を押したのがセブ。観客も少なく、まったく良い反応が得られず自信を失わせることになるのですが、後になってミアの夢がかなうきっかけになるわけです。

オーディションを受けるという誰かの物差しの上で表現することと、自分の物差しで作り上げた舞台で、自分が伝えたいことを表現することには夢に対してオーナーシップを持って向き合うという点で大きな違いがあるのだと思います。そういう向き合い方をしてはじめて「あり得る」かもしれないいくつかの人生に対して選択をする準備が整うような気がします。

一方のセブは、当初から「自分の店を持つ」という夢に対してオーナーシップを持って向き合っていたのかもしれません。ジャズミュージシャンとして成功することを目的とせず、手段、プロセスとして選択をしています。もちろん、そういう人生も開けていました。そして、ラストのシーンで映し出されるミアの成功に寄り添う人生も開けていたかもしれません。そんないくつかある選択肢の中からセブが選んだ人生は、確かなオーナーシップを感じられる人生に見えました。

私もこの作品が大好きで映画館へ2回、足を運びました。音楽も好きでサウンドトラックのCDも買っちゃいました。DVDも買おうかどうか迷っています(笑)。みなさんが、もしもこれからこの作品を何度かご覧になる機会があったら、気が向いたときはミアとセブが自分の人生にどのくらいのオーナーシップを持っているかという視点でご覧になってみてください。そんな風にみていると、作品の最後の最後、セブの姿がハッピーエンドに見えるかもしれません。


201906nakamuraまんなかタイムス〜執筆者プロフィール〜
中村 容(なかむら よう)
学生の就職支援に携わったのをきっかけに、働き方や暮らし方の選択をとおして人が成長していくプロセスに関わるキャリア支援の魅力にはまる。現役世代のキャリアシフトを支援する「まちのキャリアラボ」や小さな映画館シネコヤで映画作品から暮らし方や生き方を考えるイベント「おしゃべり考房」など、地域をフィールドにキャリア支援に取り組んでいる。地域活動での肩書きは「まちのキャリアデザインマスター」。本業は大学職員。

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