知りたい:防災に「女性の視点」って?

知りたい:防災に「女性の視点」って?

地震や水害に加えて近年は酷暑もあり、「災害大国」といわれてもおかしくない日本。防災は多くの人の関心事だ。各地に防災対策会議や自主防災組織があり、いま「女性の視点」が求められているという。なぜなのだろうか。(古川晶子


防災には「公助」「共助」「自助」という3つの側面があるという。「公助」は行政や専門家の力と技術で、大規模な救助や復興はこれなくしてできない。しかし、日頃の備えや災害発生直後の個々の場面では、命を守る「自助」、そこにいる人たちが助け合う「共助」が効力を発揮する。

公益財団法人市民防災研究所の池上三喜子さんは「災害が起きたとき、誰かが情報や指示をくれるのを待っている姿勢では命を落としてしまいます」と言う。様々な災害事例を調査してきた経験から、「住民が日頃から、すぐに行動できるよう、防災や避難について話し合っている地域」では、災害が起きても命を守れる可能性が高くなる、と指摘する。

その「住民」は自治会役員などを中心としているが、現状では男性が多くを占める。同じ属性の人たちで話し合いをすれば意思統一はしやすいかもしれないが、実際に被災するのはその地域にいる多様な人々だ。それぞれの価値観やニーズをくみ取ることで、災害によって損なわれる日常の生活を少しでも補い、安心・安全を提供できる災害対策が可能になるのではないか。その第一歩として「女性の視点」の必要性が言われている。

防災会議や自主防災組織の責任者に女性を加える、という取り組みがある。これによって、防災対策のアイデアを出したり、既存の計画を評価したりする際に、女性の意見をいれやすくなる。避難生活においては、女性の被災者の下着や生理用品についての相談を受ける、子どもや高齢者を抱えて避難する家族への配慮を形にする、DVや性被害の予防措置をするなど、様々な可能性がある。

ここで必要なのは、取り組みがうまく機能するためには、会議や組織に女性の発言を受け入れる土壌があることだ。既存の構成員が、女性が発言することをよしとしない、あるいは新人を受け入れがたいというような状態だと、そもそも取り組みが始まらない。既存のメンバーには防災のために多様性が重要であることを学習する機会が必要かもしれない。とりわけジェンダー(社会的・文化的に作られた性別)の学習は必須だろう。

池上さんは、東京都発行の女性向け防災ブック「東京くらし防災」の編集委員会で委員長をつとめた際、多様な視点の重要性と効果を実感したという。20代から70代までの女性による委員会では、それぞれに家族状況やライフスタイルが異なる委員から、当事者ならではのアイデアが得られた。「ひとりぐらしを想定した内容も盛り込む」「子どもがいる家族は男性も一緒に子育てする前提で」「気軽に持ち歩いてぱらぱらと読めるサイズとデザイン」「シールをつければカスタマイズしてマイブックに」など、このメンバー構成だからこその提案がたくさんあったという。

巻頭企画「いますぐできる!15のこと」は、安全性を高める習慣のリストだ。たとえば「カーテンは閉めて寝る」は、もしガラスが割れたとき、カーテンが飛散防止の役割をするというもの。「食器の重ね方を変えてみる」は、委員が自宅でいろいろなサイズの食器を重ねて実験したうえでの提案だったそう。そのような自発性や意欲は、受け入れられる土壌があってこそ発揮されるものだろう。

また、災害の後の生活再建において「女性の視点」はさらに重要だ。阪神淡路大震災から10年後に開催された防災フォーラム2005「災害と女性~防災・復興に女性の参画を~」アピール文には「5、災害時に女性が仕事を失わないための施策や支援を行うこと」という項がある。被災後に、家族のケアのために勤めを休んだことで職を失うのは圧倒的に女性の側で、再就職が難しいのも同じく女性。シングルマザーの場合はそく生活が成り立たなくなる。災害時の特別休暇を男女ともに取得できるような規則や、離職した場合の経済支援や就業支援があること、その情報が必要な人に届くことが求められる。

このアピール文のような、経験から得られた貴重な知恵を風化させず、今後の備えに活かしていくために、防災に「女性の視点」が必要だ。誤解されやすいが、女性だけの防災チームを作るとか、男性を排除するとかいう話ではないし、女性だけを優遇するということでもない。防災において、子ども、外国人、セクシャルマイノリティなど、配慮すべき多様性の幅は広い。その第一歩としての「女性の視点」であり、それを活かすには、まず受け入れることができる土壌作りではないだろうか。

池上さんは、災害対策を一言でいうならば、「けがをしない」「命を落とさない」「火事を出さない」備えをすること、だという。その目的を見失わず、できるだけ多くの人に効果が届くことを、関係者が常に念頭に置けば、女性や新人を受け入れることは難しくないはずだ。


公益財団法人市民防災研究所

東京くらし防災(東京都防災ホームページ)

防災フォーラム2005 報告とアピール文(「災害と女性」情報ネットワーク)