知りたい:妊娠葛藤相談~誰もが孤立することなく、自由に幸せに生きることができる社会へ

知りたい:妊娠葛藤相談~誰もが孤立することなく、自由に幸せに生きることができる社会へ

妊娠のことを俗に「おめでた」と言う。しかし、現在の日本社会において、産むこと、育てることは一定の負担を伴い、誰もがそれを担えるわけではなく、簡単に「めでたい」「うれしい」と言えない場合も多い。「生理がこない」「避妊に失敗した」「妊娠したかもしれない」などの悩みをもつ女性を受け止める「妊娠葛藤相談」を行うのが、NPO法人ピッコラーレの「にんしんSOS東京」だ。(古川晶子)


「私たちは、大きな不安を抱える相談者が頼ることのできる、港のような存在でありたいと思っています」と、ピッコラーレ代表の中島かおりさんはいう。「にんしんSOS東京」の相談者は、レイプなどにより望まない妊娠をした未成年者、すでに複数子どもがいて経済的・身体的にこれ以上子どもを持つゆとりがない経産婦、避妊に協力しない恋人にNOを言えなかったという独身の女性など、様々だ。ピッコラーレでは悩みを聞くだけでなく、必要に応じて宿泊の手配や病院等への同行支援も行っている。

ピッコラーレはどんな経緯や立場の妊娠の相談にも対応し「匿名で、安心安全で、役に立つ相談先」を旨とする。「誰にも言えない」「誰もわかってくれない」という大きな不安を抱える相談者に、まずかけられる言葉は「連絡をくださいましてありがとうございます」「今まで1人で抱えて大変だったね」というものだ。

日本の医療は世界各国と比較しても非常に整っていて、病院や産院の体制不足が原因で赤ちゃんが亡くなる確率は非常に低い。その一方で、新生児がコインロッカーやゴミ捨て場に遺棄された、虐待によって乳児が亡くなったという報道が後を絶たない。そのような場合、妊娠・出産をした女性に対する自己責任論を振りかざし、一方的に責める傾向がある。しかし、妊娠は女性だけでできるものではない。必ずかかわる男性がいるはずだが、そちらを責める声はほとんど聞かれない。すべてを引き受けることになるのは女性だ。

3年半、延べ2700名の「妊娠葛藤相談」の実績から見えてきた傾向は次のようなものだという。

背景に暴力がある。妊婦が同時に虐待やDV、性暴力の被害者であるということだ。ネグレクトを受けてきた女性の場合は、適切な情報を得る機会も奪われている。「妊娠したら生理が止まる」ことを知らなかった、という若年女性も珍しくないのだ。

貧困の問題も大きい。親が娘を進学させず、早くから働かせていることも少なくない。家に生活費を入れるよう要求されて性風俗のアルバイトをし、そこで性被害にあい妊娠した、というケースもままある。

社会資本から排除されている場合もある。行政が運営する性暴力被害等の相談窓口はたいてい電話によるものだが、ピッコラーレではメールやTwitterのダイレクトメッセージ等、オンラインの窓口を複数用意している。いま、若者の主な通信手段は電話ではないからだ。LINEの通話はたまに使われているが、基本は画面でのやり取りだ。また、相談者が電話代が払えず止められていることも珍しくない。そのような場合は無料でWi-Fiが使えるファーストフード店などからかかってくるのだという。このほか、要件を満たさずシェルターに入れない、生活困窮女性むけの貸付金はあるが中絶の費用に当てられない、などということが実際にある。

行政では、児童福祉法にもとづく「特定妊婦」への支援はある。しかし、その目的は困難な状況にある妊婦を救済することではなく、あくまでも出産後の子どもの養育を支援することだ。現時点で日本には「妊娠したかもしれない」「誰にも言えない」というときに頼れる公的機関は存在しない。

助産師と社会福祉士の有志で始めた「にんしんSOS東京」の活動は、この春から、NPO法人ピッコラーレとして体制を拡充しようとしている。相談員として活動する人だけでなく、寄付などのサポートも大歓迎とのこと。絶望的な状況にあると感じている女性が、一時的にでも荒波を避けることができる、安心できる誰かがいてくれる港のような「にんしんSOS東京」を支える人が増えることで、日本をもっと生きやすい社会にすることができるのではないだろうか。


NPO法人ピッコラーレ