知りたい:暴力に遭った女性の心の傷に向き合う

知りたい:暴力に遭った女性の心の傷に向き合う

先ごろ刊行された、女性の政治学者の自伝が、一部で話題になった。性暴力の被害に遭ったが「魂の殺人だとは思わない」という言葉が強調して取り上げられている。著者の意図とは別に、女性の心の傷を矮小化する道具として利用される危険性を感じる。さいたま市内で毎月、女性を対象に「こころのケア講座」を開催する「蒼い空の会」代表の宇野慶子さんに聞いた。(古川晶子


―この本のことをご存じですか?

ぜひ読みたいと思っています。著者のインタビュー記事に「あなた自身を、出来事や外部に定義させてはいけない。あなた自身のことはあなた自身が定義すべきなのだから」という言葉がありました。本当にそうだ!と心を揺さぶられます。

-「魂の殺人だとは思わない」という言葉についてはいかがでしょう。

性暴力の傷はまちがいなく「魂の殺人」と言っていいものですが、そう定義することで、生きる意味を失わせてしまうこともあり得ます。著者の言葉は、誰にも言えない時、言わない時があり、消えてしまいたい時もあり、それでも人とのつながりを求めて生きてこられた中で獲得されたものだ、と感じています。

-「こころのケア講座」について教えてください。どのような女性が参加されますか。

講座では、一人ひとりの背景を確認するわけではありませんが、子ども時代に虐待されていた方、親のDVを目撃しながら育った方、親とアタッチメント※を結べず育って生きにくさや傷つき感を抱えている方、DV被害に遭っている方など、さまざまな方を想定しています。
※アタッチメント・・・特定の人物に対する心理的な結びつき。愛着。
子ども時代に、あるいは大人になってから性暴力被害に遭った方も、です。講座では毎回、はじめに「皆さんには自由があります」と宣言します。

-自由、ですか?

そうです。途中で席を移っても、お菓子を食べても、疲れたら席を立ってもかまいません。傷ついた心を抱えている方は日常の中に自由が無いので「私には自由がある!」という感覚を持てない方が多いと思います。まして、講座に参加するとなると、学校で刷り込まれた上下関係が作用するので、最初にそれを崩したいのです。

-講座の内容はどんなことですか?

心の傷つきやそれによって変容させられること、加害者(講座ではBさんと呼びます)が暴力を使って支配するしくみ、心の傷から回復するプロセスなどをお伝えしています。そのほかに日常に取り入れるといい小さな習慣なども。参加者は、それらを学ぶことで、自分の感覚を取り戻し、それを「OKだ」と思い、「私には力がある」と気づいていきます。タイミングはそれぞれですが、お話ししている私がびっくりするくらい心に届いているという印象です。

-本の話に戻りますが、「魂の殺人だとは思わない」という言葉が、暴力による傷つきを矮小化することに利用されるのでは、という懸念があります。

絶望的な怒りを覚えます。1人の女性が、残酷な暴力を生き延びて出した結論を、尊重することも受け止めることもせず、自分に都合よく利用しようと考える卑しさ貧しさに反吐がでる思いです。著者は、被害に遭った日からこれまで、ずっと傷と共に生きて、その意味づけを考えてきたのだと思います。私はその変遷をたどってみるつもりで読みたいです。


こころのケア講座は、身体的・経済的・精神的 暴力によって傷つき混乱した女性のためのプログラムだ。傷ついた状態から、自らの力を見いだし、その力を自分や大切な人のために使える状態になることを目指している。話題の本が、このような支援活動に携わる方の知恵として、意義ある形で活用されるよう願う。

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