知りたい:演劇で社会を変える「フォーラム・シアター」(上)

知りたい:演劇で社会を変える「フォーラム・シアター」(上)

この社会にはたくさんのハードルや穴ぼこがある。みんなつまずいたりぶつかったりしながら日々なんとかやってるのだけど、自分のことじゃない「困った!」はなかなかピンとこない。そういうところから発生する誤解やこじれもあるが、本当はいろんな問題は全部つながっていて、こじれをほどけば手を携えられる可能性もある。それが理屈抜きでわかる「フォーラム・シアター」という手法について、社会学者の熱田敬子さんに聞いた。(古川晶子


―「フォーラム・シアター」は、お芝居なのでしょうか?

「フォーラム・シアター(討論劇)」は、ブラジル出身の南米の演出家で、民衆演劇運動を組織したアウグスト・ボアールの著書『被抑圧者の演劇』で紹介される、社会変革や個人のエンパワメント(力づけ)の一部です。ボアールは、普段演劇など見る習慣はない農民や労働者と、街角や街路、あらゆるところで演劇はできると言い、実践してきました。観客が主役となって、自ら芝居の筋を変え、解決を模索する方法です。一言で言えば、「演劇はどこでもできる、誰でもできる、そして、演劇は社会を変える」ということでしょうか。

―演劇でもあり、社会的な活動でもあると。

ボアールの方法では、参加者が自分たちの抱える問題を表す、短い劇をつくって演じます。観客はその問題の解決案を、演技で提示し、議論します。例えば、DVをテーマにしたら、暴力をふるう夫がいると聞いて、妻も言い返せばいい、と思うことは簡単です。しかし、目の前で、怒鳴り、家具を蹴倒し、殴りかかってこようとする現実の男性(俳優が演じる)に向かって、毅然とモノを言うことは簡単ではなかったりしますし、言い返したことで相手にさらに殴られるかもしれないという恐怖も感じます。では、どうしたらいいのかと、そこからみんなで考えるわけです。

―お芝居でディスカッションするワークショップ、ですか?

それもできますが、私はもっと大きな可能性がある方法だと思っています。私は若い頃、かなり長く演劇をやっていたのですが、「フォーラム・シアター」に出会ったのは最近、中国のフェミニストたちを通じてでした。
中国では、2003年から、女性たちによる『ヴァギナ・モノローグス』上演運動が盛んにおこなわれており、このことに興味を持ったことから、2016年に中山大学の柯倩婷さんを招いて講演をしてもらいました。

『ヴァギナ・モノローグス』はアメリカのイヴ・エンスラーの作品で、女性たちが自らの女性器を語るというものです。1997年にオフブロードウェイ賞を受賞し、1998年に出版されてから、アメリカ国内だけでなく、世界各国でプロの俳優やフェミニストたちによって上演されています。

中国では、2003年に広州・中山大学で艾晓明というドキュメンタリー作家でフェミニストの女性が、学生たちを指揮して上演を行いました。しかし、中国で独特だったのは、アメリカの脚本を演じるのではなく、自分たちの物語に作り替えていったところです。柯さんは、2003年に学生として上演に参加しましたが、現在は教員として学生たちと、自分について語り、インタビューを通じて他者の経験を学んでお芝居をつくる実践をしています。中山大学だけでなく、この上演が話題になり、あらゆる都市で大学生を中心とした若い世代のグループが、自分たちの『ヴァギナ・モノローグス』を創り始めました。演じる場所も、大学の中、劇場、地下鉄の中でのフラッシュモブなど、様々です。

―演じることによって、爆発的に広がったのですね。

そうです。誰かリーダーがいたのではなく、自発的に広がった草の根の運動でした。参加した大学生に話を聞くと、とても楽しかった、フェミニズムやジェンダーに深い興味を持つきっかけになったと言っています。たとえば、北京外国語大学の女子学生たちは、自分の女性器が言うであろう言葉をフリップに書き、それを持って自撮りしてネットにアップしました。
「私のヴァギナは言っている、私はセクシーでもいいけどハラスメントはダメ!」
「わたしのヴァギナは言っている”冷やかしお断り💗」
などです。

(下に続く)


お芝居といえば、演出家が描く世界を役者が形にする、というものだと思っていた。「フォーラム・シアター」では、演じる人が、自分自身の経験や感情と向き合い、そこで見えた問題とその解決方法について、観客と語り合うという。そこからどんな広がりが生まれるのだろうか。続きをお楽しみに。

『なぜジェンダー教育を大学でおこなうのか』青弓社
熱田さんが中国の『ヴァギナ・モノローグ』上演運動について書かれた項がある。