知りたい:「ネット選挙」は今?

知りたい:ネット選挙は根付くか

まもなく第25回参院選の投票日。おおむね3年おきにやって来る国政選挙で、前回のタイミングにあたる2016年から「18歳選挙権」がスタートした。残念ながら若者の興味関心が盛り上がっているという印象はあまりないが、「18歳選挙権」より少し前、2013年から「ネット選挙」が解禁され、若者は情報収集しやすくなっているはず。「ネット選挙」は現在、どのような展開を見せているのだろうか。(古川晶子


インターネットは便利だ。今や買い物も会議も面談も、カウンセリングやある種のセラピーさえもネットを介して行えるようになった。だから「ネット選挙」というと投票がインターネットでできるのかと思ってしまう向きもあるが、それは実現されていない。

「ネット選挙」は「インターネット選挙運動」だ。総務省のガイドラインによれば、活用できるものは「ウェブサイト(いわゆるホームページ)、ブログ・掲示板、Twitter、Facebookなどのソーシャル・ネットワーキング・サイト、動画共有サービス (YouTube、ニコニコ動画 など)、動画中継サイト (Ustream、ニコニコ生放送 など)」とされているが、この中で「掲示板」と「Ustream」はすでに懐かしさを感じさせる存在となり、最後に付け加えられている「その他、今後現れる新しい手段」に当たるものが次から次へと出てきている。

「ネット選挙」は従来の「選挙運動」と同じく、告示日から投票日前日までの期間に行われるものと定められている。つまり、9日間だけ「私に清き1票を投じてください」、「当選したら世界平和を実現します」などというメッセージをインターネットで発信することができるというわけだが、どうにも腰砕け感が拭えない。

従来の「選挙運動」の、聞きたくなくても聞こえてくる大ボリュームの音声であれば、9日間だけ、と規制するのもわかるが、インターネットはそういう押しつけ型の情報発信をするものではない。情報を閲覧する人は、その時点ですでに興味を持っている。だから、候補者の名前を連呼したり、お願いを繰り返したりする必要はない。独自性と説得力を持つメッセージを、的確に伝わる形で掲載することの方が重要だ。量より質がモノをいう。インターネットは「中身で勝負」ともいえる。

インターネットを使った情報発信では、ひとたび閲覧数が増えると、ページは新たな検索に対応して表示されやすくなり、また閲覧数が増える・・・というサイクルが機能する。そうなるように継続的にサイトを更新し、また関連するSNSや動画配信サービスで補足的な情報をたびたび発信し、閲覧者からのコメントに返信するなど双方向のコミュニケーションをとり、さらに関心ある人を引き寄せる・・・という活用をするもので、9日間という規制にはあまり意味が感じられない。

「9日間だけ、私に1票いれて!と言うだけなので、どうなんですかねぇ」というのは、この春の統一地方選で初当選した佐伯かずみさん(さいたま市議会議員)。初めての選挙運動では、9日間の制限を受けて「私に投票してください」という意味の言葉を発してはいけない時期(公示日前)といい時期(公示日後)を適切に区別するのが難しかったという。

先輩議員のアドバイスは「公示日前に選挙結果は本来でている」というものだったそう。日頃の情報発信や地域での活動によって、投票する人はだいたいつかめているという意味で、「ネット選挙」はいまのところ、選挙運動を行う側もうまく活用できずにいるようだ。ちなみに、公示日前にインターネット上で発信することは「政治活動」と呼ぶので、現職の議員だと、日ごろの議員活動の報告をホームページやSNSで発信する「政治活動」ができる。新人はその点、まだ報告するような実績がなく、不利かもしれない。

佐伯さんは、選挙カーや自転車での地域回り、政見情報「立憲号外」を全戸配布という「地上戦」と、インターネットおよび駅頭でのアピールによる「空中戦」を組み合わせるという考え方で選挙運動を行った。インターネットは、公示日前から開設していた自前のホームページやSNSのほか、選挙運動のポータルサイト(有料)にもプロフィールと政策のメッセージを出稿した。「女性」「さいたま」などのキーワードで候補者情報を検索し、ヒットした情報を比較検討できるので、リアルでは情報収集しにくい若者や子育て世代、まんなか世代にも役立つサービスだ。

しかし、選挙戦において「確実に投票に行くのは高齢者」という現状は無視できない。ベテランはそこをがっちりつかむことに長けていて(特に現・与党)高齢者向けのお楽しみ企画などで接点を増やすという技まであるそう。いくらポータルサイトが整備されても、お楽しみ会に集まる人々が多く投票に行く状況が変わらなければ「中身で勝負」にならない。世の中を変えるためには、若者や現役世代が棄権せず投票に行くことが、切実に必要だ。

日本の学校、特に高校では、かつての「学生運動」以来、政治と学校教育を切り離す傾向が続いてきた。佐伯さんも学生時代を振り返ると「遊びと学校とバイト」の日々で、政治に関心を持つことはなかったそう。しかし2015年から、「18歳選挙権」を受けて、高校生の政治的活動は限定的に認められている。議会の傍聴に行く、学校にいろいろな議員を招いて演説を聞く、政治や地域のことをディスカッションする、生徒どうしで模擬演説や選挙をする、などの取り組みが増えてもよさそうだ。

政治の世界に入ったばかりの佐伯さんは、女性の議員や候補者の発信に要注目だという。女性は、「何か課題や問題、これおかしいぞ、があり、立ち上がる」傾向がある。「これおかしいぞ」は、すなわち政治の課題そのものだが、日本社会で抑圧されている女性は、それを切実に感じさせられることが多い。そこから「ネットで情報を得る若い人たちが、政治に関心をもってくれることが課題。自分たちがおかしいと思っていたことを言ってくれる人がいたら投票すると思う」という佐伯さん。また、「若者や障がい者、闘病生活の経験者、性の多様性の当事者など、様々な視点を持つ方の関わりが必要」とも感じている。

それにはインターネットがかなり使えそうだ。有権者は選挙運動の期間だけのものでなく、日ごろ様々な課題について発せられる、当事者からのメッセージや情報を受信して、意識を研ぎ澄ませる必要がある。当事者の声を受け取って考えを深め、思いを込めた1票が政治を左右するのが、民主主義社会のあるべき姿ではないだろうか。